東日本大震災報告会『被災地からの発信』(6) 『東日本大震災報告会~被災地からの発信~』に参加して

『東日本大震災報告会~被災地からの発信~』に参加して

はじめに  2月20日の一般会員研修で、講演した宮城県土地家屋調査士会の鈴木修会長と意見交換をして以来、「泥かきも立派なボランティア。しかし神奈川県もいつか必ず被災地になる。土地家屋調査士として現在の被災地の状況を調査、研究し、神奈川県が被災した時に役立てることが最大のボランティアであると考える」という会長の話がずっと気になっていた。実際に被災地を見て話を聞けば何かヒントが得られるのではないかと思い今回の報告会に参加した。

土地家屋調査士と境界復元  震災後に我々の専門知識が活用できる最大の場面はやはり境界の復元であろう。ブロック塀など工作物の上に鋲やプレート標を設置することはよくある事だが、地震で倒壊し亡失してしまうことは容易に想像がつく。破壊された建築物、工作物の復旧にはまず境界点の復元が必要であり、それも可能な限りスピーディーに行う必要がある。そのために復元の手法を研究、確立することは土地家屋調査士としての責務であると思う。

地殻変動と境界復元  平時の境界復元と震災後の境界復元との大きな違いは、地殻変動により境界点はもちろん基準点についても位置が大きく移動してしまっていることである。それも単純な平行移動であれば、境界点と基準点の相対的な位置関係が変わらず逆打ちによる境界復元も可能になるが、実際には移動量は均一ではなく、“ゆがみ”を生じていることで復元がより困難になる。震災後の筆界の取り扱いとしては『地震による地殻の変動に伴い広範囲にわたって地表面が水平移動した場合には、土地の筆界も相対的に移動したものとして取り扱う。なお、局部的な地表面の土砂の移動(崖崩れ等)の場合には、土地の筆界は移動しないものとして取り扱う(平成7年3月29日法務省民三第2589号回答)』との通達があるが、移動の原因が主に地殻変動によるものなのか、地滑りなどによるものなのか(地滑りした場所も地殻変動は起こしているはずだが、平均的な地殻変動を超える移動が地滑りによって起こっているという意味)の見極めについても、手法を研究する必要があろう。

パラメーター変換と境界復元  ゆがんで移動した境界点(座標値)の修正にはパラメーター変換を用いることになるが、仙台市太白区内の14条地図整備地区にて検証のための再測量を行い、パラメーター変換後の座標値の正確性を確認したところ、差異が1cm以内で、有用性が認められたとの報告があった。比較的地盤が安定した場所であれば有効だと思う(ただし中には、見た目は異常が無くとも5cm以上差が出た境界点もあり、やはり個別の検証は必要)。しかし、移動が不均一でパラメーター変換が使えない場所も多く、このような場合はケースバイケースで対応することになるが、可能な限り多くの事例を収集できればと思う。また、『地図の街区単位修正作業及び土地の境界復元作業の概要』として、現地の点検測量の方法と、その結果を元に行うべき作業内容を示したフローチャートが資料として配布されたが、この貴重なフローチャートを元により具体的な手法を研究したいと思う。

公共基準点を用いた一筆測量の目的とは  公共基準点を用いる一筆測量の目的は精度を高めるためではない。どんなに丁寧に測量しても、得られた成果(座標値)が与点の精度を上回ることは決してありえないからである。土地の形状と面積を求めることに限定すれば、1級基準点から2級、3級、4級と順次測量された基準点成果を用いた測量よりも、任意座標値で局地的に測量された成果のほうが高精度である事は明らかである。やはり、公共基準点を用いる測量のメリットは境界点の復元にあると思う。境界点が公共座標値で電子基準点と関連付けられていればパラメーター変換が可能になり、地滑りによる局地的な境界点の移動か否かの判断も可能になってくるはずである。

一筆測量とGPS  地図が未整備の場所で測量を行う場合、市区町村が設置した公共基準点が近傍に無い、配点に問題がある、より高精度に測量を行う必要がある、などの理由により任意座標値による測量を行わざるを得ない場合は多いと思う。GPS測量器を用い、電子基準点を与点としてスタティック法による基準点を設置し、それを元に一筆測量が出来れば理想だが、残念ながらそれでは余りにも依頼者への負担が大きすぎる。発想を変え、電子基準点を引照点(恒久的地物の代替)と捉え、仮想電子基準点方式のGPS測量を用いて任意座標による成果を公共座標と関連付けることは出来ないだろうか。これも今後の研究課題としたい。

最後に  実際に被災地を見て、被災者の方々の苦悩と絶望、苛立ち、怒りを痛いほど感じることが出来た。しかし、自分なりの今回の目的が土地家屋調査士として何が出来るかを考えることであったため、そのような感情はあえて排除し、測量に関することのみを記述した。またここに記述した事項はあくまでも“私個人の感想”であることに留意願いたい。 最後に、自身も被災者でありながらこのような報告会を企画運営してくださった関係者の方々に深く感謝したいと思う。

広報部次長 中川 裕久

・地図データに基づき復元した境界線(詳細は確認できなかったが、おそらくパラメーター変換したものと思われる)と現況(現地境界杭)が大きく乖離してしまっている実例。

・当該地の地図を見ると道路や宅地がきれいに区画されていることから造成地と思われる。造成の際の盛土が地滑りを起こしてしまったのだろうか?

・このような場所ではパラメーター変換が使えず、個別に復元と地図の修正を行うほか無い。

・隣地の所有者が移動してしまったブロック塀をめぐって、おのおの自分に有利な境界線を主張しているのが分かる。むしろ、パラメーター変換の結果を“正当な境界線”として押し通したほうが簡単かもしれない。しかし、建物の移動(隣地の建物は曳家中のようだ)、工作物の再構築などの手間と費用を考えると頭が痛い。

・道路が15cmほど押しつぶされている。このような場合でも従来の幅員を主張するのか行政の考えを聞いてみたい。ただし、幅員が4mの場合は、現況にかかわらず4mを確保すべきだろう。

・既に地図が整備され、正しい面積が登記されていた地区なので、境界の復元に当たっては面積的な有利、不利が可能な限り均一になるよう努める必要があるだろう。また、2mしか接道がない土地などは、やはり現況にかかわらず2mの接道を確保すべきだろう。

・いづれにしても1軒とその周辺だけの測量、立会では解決することは困難だと思われる。街区単位で測量、調整、立会確認ができればよいのだが。

・どのような結果でも、工作物の撤去や建物の移動(それが不可能な場合は土地の交換や売買)が必要になると思うが、復元後の境界点の位置について地権者の理解を得るためには、確固たる根拠が必要になろう。そのためにも事例の収集は重要だと思う。

・この調査の目的は建築確認申請における建築敷地の確定で、建物表題登記の際の境界線からの離れの記載をどうするか問題が残る、との説明であったが、建物位置を公共座標値で特定する(建物の角の座標値を記載する)というのはどうだろう。

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