「例の3棟現場なんだけどさぁ、明後日からブロックやさんが入るんだよね。忙しいところ悪いけど、明日杭入れちゃって!」 昨晩の電話に「無理」とはいえず、予定していた現場を後回しにして、ひとり穴を掘っている。どんよりとした低い雲が更に俺の焦りを増幅させる。 「最近,流れ悪いな…」 ここ数日,同様の突発的な作業が続いているうえに,雨の日がやたらと多い。しかし俺はいつものように口ずさんだ。「♪やっるなら いっましか ね~」 “カチンっ” ダブスコの先に何かが当たった。「マジか…」 そう吐き捨てながら、ヤツの顔を拝もうとシャベルでそっと土を払う。地づらから30cm弱。微妙な深さだ。 「玉石、残ってんじゃねぇかよ!」 埋石は筋書きのないドラマだ。楽勝と踏んだところほど何かが起こる。 「手間掛けさせやがって…」 一旦手を休め煙草に火をつけた。玉石はコンクリートの基礎より厄介なことが多い。杭を切るか、玉石を撤去するか、吸い終るまでに決めるとしよう。 やりきれない思いで車を運転している。本来進めるはずだった作業。開始を待っていたかのように本降りとなった。俺も人間だ、簡単に心は折れる。 ふと、玉男に思いを馳せた。「あいつ、どうしてるかな」 玉男とは、さっき何十年かぶりに地上に救出してやったヤツのことだ。玉男はやはりデカかった。いや、本当にデカかった。ヤツを罵り、ヤツに翻弄され、本気でぶつかり合って、俺たちは友となった。別れ際、スポットマーカーでヤツに顔を描いてやり「元気でな!」の一言。 俺は振り返らずに現場をあとにした。 事務所に戻ると、処理を待ちわびたファイルが愛おしい目で俺をみている。「進めようにも現場が終わってねえよ」 軽く濡れてしまった相棒をサッと手入れし、できる内業を小出しに進める。気づくと午後6時を回っていた。 「明日にすんべ」 そして俺は、我が家に帰る。 (この物語はフィクションです。登場人物は実在しません) (記事 湘南第一支部広報員 三浦 錦吾)
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