平成23年7月31日の日曜日、午後2時から約4時間、大手町の日経ビルで地籍問題研究会平成23年度第1回研究会が開催された。講演の部とシンポジウムの部の2部構成で、内容は以下の通りであった。
講演1「表示登記制度から見た地籍図」 | 講師は法務省民事局長や広島高裁長官を歴任された弁護士の清水湛氏。 | 講演2「日本の地籍」 | 講師は社団法人農業土木事業協会専務理事の鮫島信行氏。 | シンポジウム1「東日本大震災と測量」 | 座長は東京大学大学院工学系研究科教授の清水英範氏。 パネリストは国土地理院の大木章一氏と日本測量協会の大瀧茂氏。 | シンポジウム2「緊急報告 東日本大震災と登記・境界・地図」 | 座長は京都産業大学大学院法務研究科教授の村田博史氏。 パネリストは法務省の西江昭博氏、日本土地家屋調査士会連合会の児玉勝平氏、東京土地家屋調査士会の國吉正和氏、宮城県土地家屋調査士会の鈴木洋一氏。 |
紙面の都合上内容をすべて網羅することは出来ないため、筆者なりに印象深かった話をいくつかピックアップしようと思う。 去る3月11日に発生した東日本大震災によって東北地方の地盤が大きく変動したが、国土地理院の調査によると水平方向の変動量については、電子基準点網の元となる筑波のVLBI観測点で6cm強、電子基準点については牡鹿で約5.3m、仙台市内で約2.6m、茨城県でも約1.3mとのことである。また、地震に伴う地盤変動というのは地震発生時に大きく変動するのは当然であるが、地震後もズルズルと動き続け、長いときは一年間くらい動き続けるそうで、これは余効変動(よこうへんどう)と言うそうである。つまり三角点の改測は余効変動が無視できるくらいまで収まってから測量する必要があるということである。電子基準点については現在、改測後の成果が確定していて、三角点については骨格となる点は改測をし、細部の点についてはパラメーターを用いて座標変換する方法で新しい成果を作成するとのことであった。
それにしても、電子基準点の復元(改測)の早さには驚かされた。多額の費用と時間をかけ上級の基準点(三角点)から順次測量し、市町村内に基準点をばら撒いていく従来の方法にとらわれず、電子基準点を与点として必要な箇所に高精度の公共基準点を直接設置する手軽な方法はないものだろうか。 また、被災地内の14条地図(以下地図)整備地区において、ある多角点を基準に前後の多角点と境界点を測量し、震災前の成果と比較する方法で試しに変動量を調査したところ、一方の差は1mmから3mmであったにもかかわらず、反対方向については50cm弱移動していたとの報告もあった。これは地殻の変動は一定ではなく、ごく狭い範囲においても移動量がまちまちであり、地図の修正が容易ではないことを表していると思う。移動してしまった境界点について、震災前の地図の成果を正とし、それに忠実に現地に境界点を復元するのか、境界そのものが移動したとして新たに境界線を引きなおすのか(阪神淡路大震災の時の通達)、その見極めをどのようにするのか、そもそも多角点自体が大きく移動してしまっている以上、どのようにして地図の成果を修正するのか課題は多いと思われる。時間の経過と共に劣化していく地図成果の修正の重要性については前段の講演でも触れられていたが、被災地の境界と地図の復元、修正の過程については被災地外の我々も常に調査、研究する必要があると思う。
正直に言うと筆者は震災以降、苦労して作成した測量(地図)の成果を一瞬で台無しにしてしまう自然災害にどうにもならない無力感を感じていたが、沖縄と小笠原諸島において戦時中に戦火により焼失してしまった地図や土地台帳を戦後再び復元整備した、との講師の話には大いに勇気付けられた。
広報部次長 中川 裕久
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