本稿を執筆中の現在(2月上旬),全国の新人土地家屋調査士を対象として,3日間にわたり研修を行っています。残念ながら昨今のコロナ禍によりオンライン開催となりましたが,本来は全国の同期生が一堂に会して受講する計画でした。私が登録した17年前は,全国8つの地方ブロック単位で実施されていましたから,今日では随分と大がかりになり,スケールメリットを生かして充実した講義となっているものと思われます。
この新人研修,ひとくくりに「新人」と言っても,年齢層も出自もバラバラで,苦節数年の2代目,補助者や脱サラの独立組,業務ほぼ未経験の若年等々と,非常にバラエティに富んでいます。泊りがけの3日間ですから,講義後の懇親の場では,普段の日常と異なるコミュニケーションが図られます。現在は,そういったこともままならない事態となっていますが,当時は当たり前の様に,二次会くらいまで皆さんご一緒だった様に思います。
そこで同宿だったのが同い年のSさんでした。前職が土地家屋調査士の受験予備校講師というSさん。つい先日まで受験生だった集まりですから,そこかしこで声を掛けられ,すでに有名人でした。私自身は非喫煙者なのですが,どこで間違ったのか“ヘビー”が付く喫煙者のSさんと相部屋だったのは,きっと何かのご縁だったのでしょう。部屋に帰ってからも色々お話ししたことを覚えています。ただ,その後はお互い日常業務に戻り,商圏も違う為お会いする機会もありませんでした。
そんなこんなで入会5年が経とうという頃,私と同じ支部から県会の会長が出て,私まで常任理事に担ぎ出されてしまいました。こんな短い経歴で理事に上がってくる人間なんている訳無い。そう思いながら会館の門をくぐると,いた。Sさんでした。聞けば2年も先に理事に就かれ,同じく常任理事をされるというハナシ。
それから彼は研修畑,私は総・財務畑で,会務という列車の同乗者となったものの,生来手を抜くという事を知らないSさんは,何をするにも過剰品質。平均点を目指す私の様な普通人間との差は歴然で,早々に副会長。と思えば,やっぱり直接自分でやりたいと,異例の部長職に出戻って陣頭指揮するうち,それまでの無理が祟って倒れ,長期療養と休業を余儀なくされてしまいました。ご家族から「モチベーションを保つために退会はさせたくない。どうにか籍を残せないだろうか?」との相談をきっかけとして,条項はあるものの実際に使われることは無かった会費減免措置を,なんとか成文化が出来たことは,普通人間としては精一杯だった様に思います。
そうして療養を続けてこられたSさんですが,先頃唐突に,かの地に旅立たれてしまいました。ご遺族の意向もあり葬儀への出席は控えざるを得ませんでしたが,眠る様なお顔だったと伝え聞き,無念ながら,一方で少し安心した様な,複雑な感情をこの投稿に乗せています。同期の星Sさんと共に過ごした年月に感謝しつつ,ご冥福をお祈りしてこの文を終えたく思います。
(月刊『測量』2022年4月号掲載)
(記事 副会長 市川 栄二)