標石発見!! 平成28年10月19日の水曜日、横浜北支部の田村佳章会員を中心としたグループによる三角点の発掘調査が行われ、「測点番号7」「測点番号37」の標石2点が発掘されました。 この2点は今まで所在不明となっていたもので、貴重な発見となりました。 なお、「神奈川縣下外國人遊歩規程測量」の詳細と、今までに行われた調査結果については「神奈川縣下外國人遊歩規程測量の研究 その1」をご覧ください。 「神奈川縣下外國人遊歩規程測量の研究 その1」はこちら。
【測点番号7の調査結果】 探索の方法 ①前回調査で設置した器械点、方向点の座標値を再確認 ・本点については測点敷地の4隅に境界標が設置されており、前回調査で近傍に器械点、 方向点を設置しています。 再度、VRS-RTK-GPS測量(以下、GPS測量)で器械点、方向点を観測し、 前回観測の座標値と比較を行いました。 ・観測は20エポックの5回観測とし、1回観測するごとに初期化しています。 ・比較に用いる器械点、方向点の座標値は5回の平均値としました。 ・標石の測量計算に用いる器械点、方向点の座標値は前回調査のものを使用しました。 器械点、方向点(測点番号7、測点番号37)のGPS測量結果はこちら。 ・検証結果 前回の観測から1年5ヵ月後の再測量であり、人工衛星の配置など条件が異なりますが、 座標差(平均値で比較)はそれぞれ15mm、13mmでした。 今回はGPS測量の精度検証が目的ではなく、サンプルデータも少ないため、この結果を もって判断することは出来ませんが、測量にGPSを用いた場合、境界点などの復元に 有効であることが確認できました。 GPS測量の現地復元性(再現性)については今後も検証を継続して行う予定です。 「前回観測の座標値との差」はこちら。 「器械点座標値のばらつき」はこちら。 「方向点座標値のばらつき」はこちら。 ②予測した座標値で逆打ち、探索 逆打ちで大まかな位置を特定しての探索により、標石を発見することが出来ました。 蓋石は無く、標石の一部に硬い物が当たったと見られる傷(欠け)がありましたが、 地中に埋まっていたため、保存状態は良好でした。刻印の一部には僅かながら赤い塗料 が残っており、設置当初は刻印が赤く着色されていた可能性があることがわかりました。 ③標石の測量 測量により得られた標石の座標値と予測した座標値との差(点間距離)は1.124m でした。 予測した座標値 X=-64150.749 Y=-29070.958 実測した座標値 X=-64150.275 Y=-29071.977 調査を終えて 測点番号7については周辺が公園として整備されており、測点敷地(官有地)部分には 4箇所にコンクリート杭が設置されています。4箇所のコンクリート杭を結んだ四角形の 中心(重心)、と標石中心との差(点間距離)は1.354mでした。 コンクリート杭の復元方法の詳細は不明ですが、地図に準ずる図面(公図)に基づき復元 されたものと推測されます。1.354mの差は資料が公図しかない場合の境界復元の限界 を表している、とも言えるのではないでしょうか。 【測点番号7】測量結果の図はこちら。
測点番号7
発掘した標石。蓋石は無く、左上に引っ掻いたような傷がありました。
写真ではわかりませんが、刻印に僅かに赤色が残っており、当初より文字が赤く着色されていた可能性があることがわかりました。
測点番号7
現地に復元されている測点敷地(テープで四角く囲われている部分)との位置関係。
測点敷地の中心(重心)と標石とは1.354m離れていました。
測点番号7
標石は測点敷地南東の角の外側に位置しています。
四角形をしている敷地の向きは標石の向きと一致しています。
【測点番号37の調査結果】 探索の方法 ①器械点、方向点の設置 ・現地は雑木林で上空視界が確保できないため、トータルステーションを併用する こととし、一番近くの道路上にGPS測量により器械点と方向点を設置しました。 ・観測は20エポックの5回観測とし、1回観測するごとに初期化しています。 ②開放トラバースによる多角点の設置 ・多角点を1点観測するごとに座標値を仮計算し、予測した標石の座標値を元に次点の 方向を決定、予想地点のおよそ20m手前まで多角点を設置しました。 ・対回観測も併せて行い、後日改めて多角点の正式な座標値を算出しました。 ・開放トラバースの計算に用いる器械点、方向点の座標値はGPS測量5回の平均値 としました。 ・測点数は4点(出発点を含む)、路線延長は203.228mでした。 測点番号37の路線図はこちら。 ・器械点を設置した場所の地形は「谷」のため視通が悪く、 基線長(器械点と方向点の点間距離)を充分にとることができませんでした。 また、樹木に覆われた場所では人工衛星からの電波を受信する ことが出来ず、山間部でのGPS測量の運用の困難さを再認識する結果となりました。 ③予測した座標値で逆打ち、探索 逆打ちを併用した探索により標石を発見することが出来ました。蓋石は無く、標石を 覆い隠すように太い木の根が成長していました。 地中に埋まっていたことと木の根がガードの役割を果たしたことにより、保存状態は きわめて良好でした。 ④標石の測量 測量により得られた標石の座標値と予測した座標値との差(点間距離)は0.374m でした。 予測した座標値 X=-76121.014 Y=-49896.141 実測した座標値 X=-76120.856 Y=-49895.802 調査を終えて 予測した座標値と実測した座標値との差は測点番号7番の差のおよそ4分の1ですが、 これにより経年変化(位置の移動)が一定ではなく、場所により違いがあることがわかり ました。 今後の調査予定 今後も未発見の標石の発掘調査を継続する予定です。経年変化(位置の移動)の 大きな原因は「関東大震災」の地殻変動ですが、関東大震災は震源が2ヵ所ある ことがわかっています。 それにより神奈川県の東部と西部では地殻の移動量が異なるものと考えられます。 多くの標石を発見、実測することで明治時代から現在までの、移動量の傾向が よりはっきりするものと考えています。 調査でお世話になった方 小山 市康 様 湘南第二支部 杉﨑 敬文 会員 参加者(あいうえお順) 川島 浩治 会員(横浜北支部)、河本 善行 会員(相模原支部) 高杉 博 会員(横浜南支部)、竹前 信行 会員(湘南第二支部) 田村 佳章 会員(横浜北支部)、中川 裕久 会員(相模原支部) 平田 義昭 会員(横須賀支部)
測点番号37
舗装された道路から標石がある場所付近までは道がありますが、笹や雑木の幼木が生い茂っています。草刈機3台を投入し、伐採しながらの観測となりました。
測点番号37
標石を覆うように木の根が成長していました。
ちょうど標石を保護する役目を果たしているため、あえて撤去せず、測量後は現状のまま埋め戻しています。
測点番号37
標石上にターゲットを設置し、伐採の指示を出す高杉会員。
標石設置後に自生したと思われる標石脇の立木の太さにご注目ください。
(記事・写真 広報部長 中川 裕久) (監修 横浜北支部 田村 佳章)
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