20年近く愛用しているダイバーズウォッチが故障した。
セイコー社製で機械式のそれは、リュウズがねじ込み式になっているのだが、いくら回してもねじ込めなくなってしまったのだ。困った僕はすぐさま近所の「マチダ時計店」に持ち込んだ。
その時計店はご主人が一人で切り盛りしているような地味な店で、近くの「西門商店街」にある。ご主人の見立てでは、ねじ山が磨耗して“バカ”になってしまっているとのこと。事態は深刻だ。
(店主)「これは記念品とか、何か思い入れのあるものですか?」
(ぼく)「と言いますと…。」
(店主)「セイコーはダイバーズウォッチの部品、出さないんですよね。メーカー修理になるけど、生産中止のモデルだから修理してくれるかどうか。直しても新品になるわけじゃないし…。」
(ぼく)「???」
記念品でも特に思い入れのある品でもない。以前、相模大野の駅ビルにあった輸入品の腕時計ばかりを扱う店で購入した輸出モデルであるが、確か3万円もしなかったと思う。ダイバーズウォッチにしたのは現場で心おきなく使えるのと、夏場、汗まみれになっても洗えるから都合がいいと思ったからである。
よくよく話を聞くと「修理にそんなに費用がかかるなら新品買ったほうがいい」というお客がほとんどだそうだ。そりゃそうだ。高級品でもない限り、費用対効果だけ考えれば、買い換えるのが賢明だと僕も思う。
しかし、お払い箱にしてしまったらそれはゴミになるだけだし、なにより新品はもう買えない。それに使い捨てを繰り返していたら腕のいい時計職人が絶滅してしまうだろう。
(ぼく)「モノって手に入れた瞬間からストーリーが始まると思うんです。新品に換えてしまったら、たとえ同じものであっても、そこでストーリーが終わってしまうというか、またゼロからのスタートになってしまうというか…。」
(店主)「…。わかりました。そういうことなら何とかやってみましょう。」
ご主人は僕の考えを察したらしく、快く修理を引き受けてくれた。
今、僕の左腕では修理されたダイバーズウォッチが8日ぶりに再び時を刻んでいる。これは部品商に1つだけ残っていたリュウズの部品を探し出し、ご主人が自ら修理してくれたものだ。この時計店のご主人とはこれから長い付き合いになりそうだ。
ちなみにリュウズのねじは消耗品だそうで、どうしても汚れがたまる部分でもあるので、少しでも「硬い」と感じたら、時計店にクリーニングを依頼するとよいそうだ。ダイバーズウォッチの愛好者の方、どうぞご参考に。
(記事・写真 相模原支部広報員 中川 裕久)