<いのち>を捨てない社会を夢見て

今、日本では15歳未満の子供の数よりもペットの犬・猫の数のほうが多いそうです。その影で、飼い主のいない犬や猫が、年間31万頭も殺処分されていることをご存知でしょうか。そのうち約1万頭が、ここ神奈川で処分されているといわれています。

 “飼い主のいない犬や猫”、それは単純に「野良」という意味ではありません。各都道府県の収容・処分施設(一般的には「保護センター」や「愛護センター」という名称です)には、野良犬・野良猫が捕らえられ収容されるほか、迷子も連れてこられますし、「もう飼えない」などという理由で飼い主が直接持ち込んだり、ペットショップの店員や繁殖場のいわゆるブリーダーが、一般市民を装って売れ残りを持ち込んだりするケースも後を絶たず、また、そうした繁殖・販売業者が倒産し、その場に放置されるたびに“飼い主のいない犬や猫”が膨れ上がっていくのです。


必要な手続き、必要経費の支払いをすれば、施設への持ち込みは合法です。野山に放すことは「遺棄」として違法行為に当たるのですが、正しい場所(=収容施設)であれば、同じ「捨てる」であっても何のお咎めもないどころか正当な行為だという、おかしな日本の法律。施設の職員は、捨てに来る身勝手な人間に対して、思い直すように説得することはできても拒絶することはできず、最後は引き取るしかないというのが日本の現状です。そして、あっという間に満杯になる収容施設では、これまた「法の下」に、わずか数日の収容期間を経て、引き取り手の現れなかった犬・猫たちが、二酸化炭素を送り込まれた部屋で窒息死させられていくのです。

一方で、こうした何の罪も無い犬・猫たちを救おうと、多くの保護ボランティアが存在し、精力的に活動しています。31万頭という途方も無い数ですから、もちろん全頭を助けることはできません。現実に救えるのはごく僅かな数。それでも、確実に救われる<いのち>は増え続けています。また、施設へ送られる前の状態(たとえば、倒産した繁殖場から直接に、放置された空き地から直接に、など)で保護ボランティアが救出するケースも多々あります。そうして助けられた犬・猫は、「預かりボランティア」の各家庭でごく普通に生活しながら、新しい引き取り手が現れるのを待つのです。

我が家のビーグル犬も、このようにしてボランティアの手によって救出された一頭です。その縁で、春先には私自身が「預かりボランティア」も経験しました。とても残念なことに、元気でやって来たそのときの“預かりっ子”は特別に進行の速い悪性腫瘍に侵されて、闘病の末この世を去りました。最初で最後の家庭犬としての我が家での暮らしは、たった2ヵ月半で断ち切られました。今思えば、まるで安らかな最期を迎えるために、我が家にやって来たかのようでした。

信頼していた飼い主に捨てられたり、劣悪な環境下を生き抜いてきたりした犬猫たちは心身ともに傷ついていることが多く、引き取り手はそれなりの覚悟が必要になるので気軽にお勧めすることはできません。ただ、まずはこうした現状を一人でも多くの方に知っていただき、犬猫を家族に迎える方法の選択肢の一つに加えていただくことだけでも一歩前進と思って、今後もこうした活動に携わっていくつもりです。

(神調報H21.8・9月号掲載) 湘南第二支部 深谷 美登里
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