JR東海道線清水駅から徒歩5分ほど。会場となった清水テルサ(静岡市東部勤労者福祉センター;静岡市清水区島崎町223番地)1階の多目的ホール(507席)には、午後1時30分の開始時間を待たずに、既に300人以上の出席者が訪れていました。地元静岡の会員はもちろんですが、会場内をざっと見渡しただけでも、神奈川のほか、千葉、東京、長野、山梨、群馬、栃木から出席した顔ぶれも見られ、今回のテーマに対する関心の高さもうかがえます。
研修内容は、「土地家屋調査士制度の発展・未来のために」と題した2部構成となっており、第1部は、講師に、公正取引委員会事務総局中部事務所 経済取引指導官 岩瀬輝彦氏を招き、「土地家屋調査士と独占禁止法・資格者団体ガイドライン及び不当廉売ガイドラインの解説」をテーマとした講演。途中休憩をはさみ、第2部は、業務報酬検討委員会の各委員による、報酬額制度の変遷と原価計算・積算方法、アンケート集計報告と啓発活動などの研究発表が行われました。
第1部の講演内容は、公正取引委員会の活動内容や目的について、最近の統計資料を用いての概括的な紹介にはじまり、平成13年に公表(平成22年に改正)した「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」において示された、資格者団体が行う報酬、広告、顧客に関する活動の基本的な考え方や、平成21年の「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」において示された、不当廉売規制の目的、廉売の態様や判断などについて、独占禁止法の根拠条文や公正取引委員会告示における関係条項を引用して、その関連性を明らかにしながら、1時間程度の限られた時間のなかで、これらの考え方の要点を概略的に説明するというものでした。しかしながら、講演テーマから期待されたような土地家屋調査士業務に関する直接的具体的な内容には及ばず、なかでも、不当廉売の態様や判断の説明において前提とされた例は、物品の製造販売あるいは仕入れ小売業を想定する、きわめて一般的なものであり、これらとはやや異なる原価計算が主要となる土地家屋調査士業務の特殊事情には言及されず、隔靴掻痒の感も禁じ得ません。
事前に私が耳にしていた企画趣旨や、講演テーマそのものから期待された内容からは、やや後退した、一般的抽象的な概説にとどまった印象は受けましたが、研修終了後の懇談の機会において、研修担当役員や今回の企画実施に直接携わった方々から、事前に何度も名古屋まで足を運び、交渉や打合せを重ねたこと、当初窓口となっていた担当者は、今回の企画趣旨に積極的な理解を示していたこと、にもかかわらず、打合せの途中から講師担当が変更され、意を尽くせない内容となることに抗議したものの及ばなかったことなど、話を聞くことができました。企画担当者としての、不本意な結果となったことに対する心残りは十分に推察することができた反面、同じく単位会の研修事業を担当する者としては、その企画発想力や行動力と熱意に対して、敬意の念を覚えずにはいられませんでした。同様の感想は、さらに第2部の内容において、いっそう強くするものでしたが、静岡会木村保成会長をはじめとする役員や会員の方々の熱心さと行動力には、いつも学ぶべきものがあることを思い知らされます。
第2部は、業務報酬検討委員会の各委員による研究発表であり、まずは、栗田隆司委員による報酬額制度の変遷について、続けて、加茂雅広委員による新報酬額の計算方法についての説明がありました。これらの内容は、静岡県内各支部における事件数の最近の推移を示したほか、平成15年に連合会業務部が作成した『業務報酬についてのガイドブック』および『報酬額算定参考資料』に基づくものでしたが、平成15年当時にはなかったいくつかの作業項目のサイクルタイムについての例示も試みられました。
発表はさらに、大石和芳委員によるアンケート集計報告として、今年度連合会が実施した報酬に関する実態調査において、10月末日時点での各支部別のアンケート回収率のほか、静岡会全体でも85%もの回答があったことが報告されましたが、この回答率の高さは、全国の単位会のなかでも突出して群を抜いた成績です。そのほか、平成19年度の前回実態調査結果を用いた分析や、田畑優樹委員による適正報酬額と啓発活動についての提言、連合会業務部理事でもある漆畑雄一郎委員による、登記事務の地方移管の議論に関する最近の動向や新オンライン申請に関する報告がなされ、最後に、佐藤猛夫委員長による未来の調査士像と題する総括が行われました。
研修といえる内容は以上でしたが、これに引き続いて、平成21および22年度の新入会員30名全員が壇上に上がり、各班5名ずつの6班に分かれて、それぞれ新入会員としての抱負を決意表明や宣誓によって披露したほか、最後に、会場参加者が全員起立して、倫理綱領を唱和、調査士の歌の全歌詞を斉唱して、午後5時少し前に閉会しました。この新入会員による抱負の披露は、本日の研修会に先立って1泊2日で実施された新人研修会において、各班それぞれが相談して考えたものだそうです。
研修部長として、連合会総会、関東ブロック協議会総会や担当者会同のほか、関ブロ研修委員会や新人研修会に出席して他会の研修担当役員と接する機会は多いですし、また、他会が開催する研修会へ、研修内容そのものから得られる情報ばかりでなく、講師となる方の専門や関心事、その考え方や人柄のほか、研修会としての企画や実施状況などについて実際に見聞きするために足を運ぶことなども多いのですが、そういった折に、各会がそれぞれに抱える課題や実情について情報交換を行い、各会に共通する課題や、それぞれに異なる実情による様々な特色ある取り組みに見られる担当者の熱意や行動力に触れて、そのたびに学ぶべきもの、見習うべきものの多いことを常々実感しておりますが、今回の最後に行われた企画は、他に類を見ない初めての経験であり、ある意味、カルチャーショックでありました。
今回、出席を快く受け入れ、歓迎してくださった木村会長や堅田研修部長をはじめとする役員、委員のみなさま方に感謝申し上げるとともに、各地で開催される研修会に遠路をいとわず精力的に出席され、この度も再会した何人もの方々に敬意を表しつつ、本稿の結びといたします。
研修部長 佐川 祐介
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