日時 平成23年1月20日(木)午前8時55分〜午前11時45分
場所 神奈川県立小田原城北工業高校
先日、小田原の神奈川県立小田原城北工業高校(城北工高)で出前授業が行われるというので取材に行ってきた。今後、筆者が所属する相模原支部でも・・・などとなった時のためにノウハウを得ておいたほうが良いかと思い取材を申し出た。早い話が単なる冷やかしである。
服装は前日から散々迷い、ありのままの姿のほうが出前授業の趣旨に合うかと思い普段着ている作業着で行くことにした。それにしても遠い。相模原の自宅から電車を乗り継ぎ2時間ほど、今朝は5時起きである。自分で言い出しておいてなんだが、物好きである。仕事が暇なのが幸いか、などと考えているうちに小田急線の栢山(かやま)駅に到着。学校まで歩いてみる。学校は酒匂川沿いにあり、天気も良く実に気持ちが良い。
対象となるクラスは建築課の3年生で生徒数は30名ほど、最初の約1時間は座学のようだ。土地の一部を分割し、建物を新築するという場面を想定し、我々土地家屋調査士の関わりを説明。黒板や小冊子『マンガでわかる土地家屋調査士のしごと』を使い、また『登記所に登記』を『役所に登録』と言い換えるなど専門用語を極力排除し、わかりやすく説明する工夫が感じられた。生徒の反応は「・・・」。仕方が無い。高校生には家を新築するという事はまだまだ縁遠い事なのだろう。
後半はちょっと話が脱線し『ナスカの地上絵は平板測量の工程を逆にし、応用したもの』という話。登記とはちょっと関係ないような・・・。しかし講師となった県西支部の力石会員、かなりの話好きのようで3時間くらい話しそうな勢いであった
次にアスファルト舗装の広場に移動し、最新の測量事情ということでGPSでのスタティック法とRTK法の説明。講師は山口理事と高澤理事。生徒達は興味深く話を聞いている。高校生にとってGPSとは携帯電話やカーナビゲーションで、我々以上に身近な存在なのかもしれない。
最後は同じ場所で逆打ちの実習。トランシットが4台既に据えられていて、県西支部の会員が2名ずつ待機している。4グループに分かれ、あらかじめ計算された逆打ちの計算書に沿ってアスファルト上にマーキングをするという作業。事前に渡された内部資料では『星型の頂点と、各頂点を結んだ線の交点の計10点を逆打ち』という事だが生徒達には完成形は知らされていないらしい。生徒全員が一人ずつ器械の操作とミラーマンを交互に体験する。会員が、器械を操作する生徒とプリズムを持つ生徒にそれぞれ張付き手取り足取り教えている。「右・・・、いや左」「川側、校舎側って言えばいいんだよ」「あ、そうか」。おいおい10点もあるのに、そんなことしていたら日が暮れてしまうよ・・・。
ところがである、30分もすると劇的な変化が現れた。初めは恐る恐る器械を触っていた生徒たちが率先して操作しているではないか。しかも一度体験した生徒が今度は次の生徒に教えている。「マジ少し動いて」「よし、まかせろ!」「気泡がウザイ。早く指示出せよ」「これって2人が仲良くないとマジやばいね」。各グループから笑い声まで上がっている。本当に驚いた。
ちょっと先生に話を聞いてみよう。
筆者「生徒の皆さんの進路は」
先生「約3分の1は専門学校などへの進学です。残り3分の2の内の更に3分の2程が建設関係への就職です。主に工務店などです」
ちょっと意地悪な質問をしてみる。
筆者「貴重な授業時間を割いてもらって出前事業を行う意味はありますか」
先生「良いと思います。みんなイキイキしています」
筆者「でも3時間では我々の仕事のすべてを説明は出来ません」
先生「こういう仕事も有るんだ、ということがわかるだけでも意味はあると思います」
結局、各グループほぼ同時に予定より早く作業を完了。最後にマーキングした各点に軽く鋲を打ち、対角線上に順次水糸を張ると・・・ここでネタばらし。3メートルのきれいな星型が出現した。「お、おー」各グループから歓声が上がっている。座学を担当した力石会員が「基点の位置が内側か外側かの違いだけで、ナスカの地上絵と手法は同じだよ」。なるほど、ここで地上絵の話と繋がるのか。先生の一人も「こういう授業も面白いね」と感心していた。アイデアの勝利か。
ここにいる生徒たちは3年生ということで既に進路が決まっている。しかし主に建設関係に就職する彼らが家を作るだけではなく、その裏で我々土地家屋調査士が関与していることを知ってもらえるだけも意義が有るのではないだろうか。また、17、8歳の彼らはこれからの人生で職業選択について迷うことが何度もあるだろう。その時、選択肢の一つとして今回の出前授業が少しでも役立てば幸いである。しかし、皆気持ちの良い少年達であった。私は天気と同様、晴れ晴れとした気持ちで栢山の駅を後にした。
県西支部の支部長以下総勢10名の会員の皆様、授業に協力してくださった学校の先生方、そして何より生徒諸君、本当にお疲れ様でした。この原稿を書き終えたら小田原名物の蒲鉾で一杯やることにするよ。
(写真・記事 広報部次長 中川 裕久)
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